欧州委員会が提案したEU ETS改革により、2031年から2040年の排出枠が現行の軌道より数十億単位で増える可能性があると、ある環境団体が金曜日に強調したモデル分析を、Carbon Pulseが報じています。EUの炭素上限をどの程度の速さで引き締めるかについて、議員の意見は分かれたままです。買い手、コンプライアンス担当部門、投資家にとって、このEU ETSの過剰供給リスクが重要なのは、緩い上限と既存の大量の余剰が組み合わさると、EU炭素価格の長期的な推移を左右し得るからです。
モデル分析が示すこと
Carbon Pulseの報道の要点は、欧州委員会が提案した設計では、現行の軌道よりも多くの排出枠が供給されるということです。この数字を示した団体は、これは確実なことではなく、市場の逼迫度に対するリスクだと主張しています。当方が入手できた抜粋には、モデル分析の前提条件の全体は示されていません。
シンクタンクのSandbagが2026年8月11日に公表した関連分析も、独自の数字で同様の状況を示しています。欧州委員会が提案した設計上の各要素を合わせると、2040年までの期間で排出枠が純増で1,903百万枠増えると、Sandbagは結論づけています。Sandbagの数字とCarbon Pulseの記事にある数字は別々の計算であるため、同一の推計として扱うべきではありません。
出発点:大量の余剰
Sandbagは、EU ETSの2025年末時点の余剰総量を2,190百万枠と推計しています。市場安定化リザーブ(MSR)の270百万枠が2026年1月1日に無効化された後、余剰は1,902百万枠となったと、Sandbagは述べています。これは、同制度が対象とする2025年の排出量(同団体の推計で1,139百万tCO2)の1.7倍にあたります。
余剰の内訳は、流通中の排出枠が874百万枠、新規参入者リザーブが486百万枠、過年度から繰り越された未割当の排出枠が117百万枠、ギリシャ基金が25百万枠、MSRが400百万枠です。Sandbagは、リザーブの量はいずれ市場に出ると見込んでいるため、流通中の排出枠と新規参入者リザーブを過剰供給として扱っています。
欧州委員会の提案内容
欧州委員会は2026年7月17日に、2031年から2040年を対象とする第5フェーズの法的枠組みを定めるEU ETS改正案を提出したと、ICAPは述べています。この提案は、制度を、1990年比で2040年までに温室効果ガス排出量を純減90%(うち少なくとも85%は域内で達成)とするEUの目標に整合させるものです。
中心となる変更は、上限の減少幅を緩やかにすることです。欧州委員会は、年間の線形削減係数(LRF)を2031年から2035年は3.7%、2036年以降は1.7%とすることを提案しており、現行では2024年から2027年が4.3%、2028年以降が4.4%だと、ICAPは述べています。その結果、現行ルールを単純に延長した場合に想定される2039年前後での新規供給の終了とは異なり、排出枠は2040年代に入っても発行され続けることになります。
供給に関わる要素がほかに2つあります。連合全体の総量から最大260百万枠が別枠として確保される予定で、Sandbagは、この上限までの発行による炭素除去の購入を、上限の引き上げやMSRルールの変更と並ぶ、大きな影響を持つ措置として挙げています(Sandbag)。
MSR変更の相互作用
この提案はMSRも改正します。2028年から、2023年の改正で導入された上側バッファーに対応する、新たな下側バッファーが設けられます。流通中の排出枠の総数(TNAC)が300百万枠から400百万枠の間にある場合、放出量は400百万枠とTNACの差に等しくなります。300百万枠を下回る場合は、100百万枠の固定放出が適用されると、ICAPは述べています。
2029年からは、すべての基準点が動的になり、毎年一定の率で減少します。これには、上限閾値の947百万枠、上側バッファーの833百万枠、下限閾値の400百万枠、下側バッファーの300百万枠が含まれます。これらの仕組みが余剰に与える影響は、モデル分析と政治的な議論が最も食い違いやすい部分です。
排出経路が結果を左右する理由
Sandbagの結果は、排出量がどれだけ速く減少するかに大きく左右されます。排出量が2040年までに85%削減という目標に沿って推移する場合、余剰と排出量の比率は現在の1.7倍から2040年には5.6倍に上昇すると、Sandbagは述べています。排出量が75%削減の経路にとどまる場合、この比率は2040年に1.7倍に戻ります。
ここに中心的な緊張関係があります。産業の脱炭素化が遅ければ、緩い上限は無害に見えますが、削減が上限の想定より速く進めば、大きな供給過剰要因になります。そうなると、気候目標の野心度と排出枠の供給は、逆の方向に引っ張り合うことになります。
買い手と投資家への示唆
コンプライアンス上の買い手にとってのリスクは、フォワードカーブにあります。2030年以降に余剰が拡大すると予想する市場は、逼迫を予想する市場とは後年の価格付けが異なる可能性があり、第5フェーズに及ぶヘッジ期間では、この不確実性を考慮に入れる必要があります。
削減・除去への投資家にとって、炭素除去のために排出枠を確保する提案は、新たな需要チャネルとなり得る一方で、供給も増やします。その正味の効果は、ここで確認した資料では確定していません。
この提案はまだ法律ではありません。欧州議会と理事会の立場によって、LRF、MSRの設計、除去に関する規定が変わる可能性があり、そのいずれもがモデル分析の結果を変えることになります。
注目点
次のシグナルは、上限引き締めの速度に関する議員の立場と、LRFの数値の見直しの有無です。あわせて、MSRの仕組みが調整されるかどうか、またSandbagなどによるさらなるモデル分析が、追加される排出枠について共通の範囲に収束するかどうかにも注目してください。それまでは、過剰供給の数字は、排出経路に左右されるシナリオ上のアウトプットとして扱うべきです。
